2018年3月26日

識者が語る、国際社会で必要とされる力と身につけ方〜上智大学 曄道佳明学長〜

上智大学曄道佳明学長に、上智大学の学生の育て方と共に、「これから社会に出ていく学生や、既に働いている若手社会人にとって必要な国際的な競争力は? その力を養い、身につける方法は?」というテーマでお話を伺いました。

 

ここ最近、様々な大学で国際系学部が立ち上がり、産業界のみならず教育界にもグローバル化の波が押し寄せています。2017年はイギリスのEU離脱やトランプ大統領の誕生など、今までの私たちの「学び」「常識」からは想像ができない様々なことが押し寄せました。そんな時代を生き抜くために、「これから10年後、20年後に世界で活躍する人材に求められる能力とは何か」を、上智大学の曄道学長に伺いました。

◆ 語学のイメージが強い上智大学の学長が理系の方でいらっしゃることは意外な印象です。まずはご経歴をお聞かせください。

―曄道学長(以下、曄道)
前任者も、また過去にも理工学部の教員が学長に就任したことがありますから、上智の学長が理系というのは特に珍しいことではありません。私は慶応大学の理工学部の大学院を卒業し、機械力学を専門としています。最近では、線路の摩耗の研究をするなど、鉄道分野が研究の中心になっています。上智大学では1998年から理工学部機械工学科(2008年から理工学部機能創造理工学科)で教鞭を取っています。

◆外国語学部をはじめ文系学生数が多い上智大学で、これからどのように理系エッセンスを加えていかれるのでしょうか。

―曄道
私はむしろ逆だと思っています。「文系に理系の要素を加える」というより、これからは「文系」と呼ばれる人々もビッグデータやAI、IoTなどによる社会変革に対応し、これを利用していかなくてはなりません。今までと、産業構造や職種などが変わっていくわけですから、文系の人たちだってそれらの知識を当然知っている必要が出てきます。実社会では「文系・理系」という分け方が通用しなくなっていきますから、「文系」あるいは「理系」の知識だけ身についていればよいという時代は既に過去のものとなっています。

文系の学生にも理系の知識は必要だし、逆に理系の学生に語学や経営的知識が身につけば、世界に伍していける存在になります。日本の若い世代の人たちも早くそこに気がついて、これまでの「文系」「理系」の分類から脱しないと、世界からどんどん遅れを取っていくことでしょう。実社会が今どう変わっているのか、グローバルスタンダードがどこに落ち着こうとしているのかを見極めて人を育てていくことこそが、真の「グローバル化」だと思っています。

理系というと、自分の専門分野の研究を何十年も続けていくイメージでしたが、今はそうではないと。

―曄道
そうです。もはや同じ分野の開発を40年も続けていられる時代ではありません。実は、グローバル化の煽りを最初に受けるのは、エンジニアなのです。彼らはそれぞれの専門分野に共通の用語や知識がありますから、言葉の壁をたやすく超えてしまい、グローバル化の波にのまれやすい。世界各国から優秀なエンジニアが日本に来る時代となり、また、企業もグローバル化することによって、いつの間にか外国人が上司や同僚になる可能性もあります。実際にそうなっている企業も少なくありません。

国内にずっといたとしてもグローバル化からは逃れられない時代なのです。「グローバル化に対応できないエンジニアや研究者は生き残ることができない時代が来る」ということを知ってもらいたいと思っています。

◆多くの留学生がワンキャンパスに集う上智はまさに国際社会の縮図とも言えますが、多国籍の大学というのはどのような雰囲気なのでしょうか。

―曄道
上智大学は四谷キャンパスに全ての学部が集まっている「小さな総合大学」ですが、その中に76か国からの留学生がいて、まさにグローバル社会の縮図と言えます。また、本学はキリスト教(カトリック)の大学ですが、学生にはムスリムや仏教の人も多く、他宗教者がお祈りをするためのプレイヤーズルームもあります。

ムスリムの学生が食事の心配をせずに勉強に打ち込んでもらいたいと考え、学内にハラルフードの食堂もオープンしました。連日盛況で、ムスリム以外の学生もたくさん利用しています。食を通した異文化交流を実践していると言えるでしょう。

また、今年の3月11日は東日本大震災から6年、仏教で言うところの「7回忌」にあたりますが、その際、臨済宗の高僧を招いて「祈りとは何か」についての講話をいただき、仏教とカトリックのそれぞれの立場から追悼を行いました。このように、様々な宗教、文化が混ざっている、まさに「多様性」が存在しているのが上智大学の「グローバルキャンパス」の特徴と言えます。

 

 

最近よく「多様性を理解しよう」というフレーズを聞きますが、私は、早くその発想から卒業すべきだと思っています。主観的な立場から多様性を理解するのではなく、そもそも、多様性が社会を成り立たせ、多様性があるからこそ社会は発展してきたのです。多様性について本を読んで学ぶだけではなく、まさにその環境に身を置くことで多様性を実感することが可能な場所が、上智大学なのです。

◆日本で最も早く「英語だけで授業を行う学部」をスタートさせた上智大学だけあり、海外の大学への留学やスタディーツアーの種類や数も群を抜いています。

―曄道
例えば、ニューヨークの共同通信やロイター通信でインターンシップなどを行うプログラムを用意していますし、インドやアフリカ、東南アジアなどの国々に行って、実際に現地の状況を体感し、現地の人々と交流するスタディーツアー・プログラムも、毎回定員以上の申し込みがあります。

現在、本学の海外協定校は300を超えています。それらの協定校との交換留学もさかんで、まさに、「上智のキャンパスは世界中にある」と言えるかもしれません。その中でも昨今は、中南米やアフリカとの連携に力を入れています。本学には国連などの国際機関や海外に展開している企業で働くことを志望して入学してくる学生も多いのですが、そのような学生にこそ世界の貧困層の生活をしっかりと見て欲しいというのが、アフリカとの提携に力を入れている理由です。

 

例えば、アフリカのベナンという国でのスタディーツアーがありますが、そこでは4、5歳の子供が路上でバナナを売っている、つまり日本の幼稚園、保育園の年齢の子供が一家の労働力として期待されているわけです。上智の学生がこのバナナを買った際、彼らはおそらく初めて日本人を見たでしょうが、日本人に興味を示すよりも、「必要なお金が手に入るか」ということだけに集中しているのです。こういった社会が存在する、世界には色々な人がいるということを実体験として知ることは、将来国際社会で活躍したい学生には必要なことだと思います

◆実際に国連で支援を始める前に、実情を肌で感じてこい、ということですね。

―曄道
その通りです。「国連で働きたい」「途上国で起業して、その国の発展に寄与したい」という学生こそ現場の実情を知るべきです。授業で国連について学んだり、スタディーツアーで実際にニューヨークの国連本部を訪れたりすることもできますが、そういった知識のほかに、絶対にローカルの視点が必要です。現場を知らないで支援に関わるほど怖いことは無いですから。

◆すでにグローバル教育は十分に進んでいると思われている上智大学が、総合グローバル学部を2014年に開設しました。あらためて新しい学部でどのような学びを提供しようとしているのでしょうか

―曄道
総合グルーバル学部は、地域研究と国際政治/国際研究を融合させた学部です。学生は、グローバルとローカルの両方の視点を持つことが求められ、グローバルとローカルのどちらか一方だけを学んだだけでは卒業できません。また、知識を詰め込むだけではなくグローバル社会の実情に即した考え方ができるよう、自主的な学びの機会も提供され、課題解決のための物の見方、考え方も学びます。

グローバルとローカルのそれぞれの知識と視点を持つことによって、多角的に世界を見る力を養うことができ、これこそが総合グローバルであると考えているのです。

これから10代20代の人が世界に出ていくにあたって、「この知識、この技術さえあれば大丈夫」という時代は既に終わっています。途上国の経済開発を学んでいくうちに、教育の問題にぶつかったり、制度や法律の壁に阻まれたりすることもあるでしょう。上智大学は一つのキャンパスに全ての学部が揃っているため、自分が所属する学部学科以外の科目も横断的に学ぶことができるという強みがあります。

◆まさにグローバル社会の縮図と言える上智大学に憧れている高校生はたくさんいます。先生が20年ほど上智で教鞭をとられて学生に伝えたいことは何でしょうか。

―曄道
よく言われることですが、今の学生は本当に真面目で授業にもしっかり出席しています。さらに情報量も多く様々なことを知っており、これは大きなアドバンテージだと思います。

ところで、日本国内にいてもグローバル化の波が避けられないことは先ほども言いましたが、グローバル化が進むということはつまり、「競争社会になる」ということでもあります。豊富な知識をいかして国際的な競争社会を生き抜くためには、国際社会で通用する「交渉力」が必要となります。これは何も商売上の交渉力だけではなく、先に述べた国際協力なども含め全ての面において必要とされる能力です。交渉力の基礎となるのはやはり確かな知識と、グローバルな視点です。

大学にいる間に、競争的な様々な場面に対応する知識整理のもとで応用力を身に付け、グローバルな視点を養う機会を十分に生かしてほしい。そして、グローバルな社会の中で自分の立ち位置を見つけてほしいです。

◆それでは最後に、学生のみならず若手社会人など、世界に出ていこうとしている人にはどんなスキルが必要か、何を身につけていけば良いのかをお聞かせください。

―曄道
今世界では、イギリスのEU離脱やトランプ政権の誕生など、想像もつかなかったことが次々に起こっています。これからもこの予期せぬ出来事は続くでしょう。私たちの誰もが、今の学生が社会で主軸となって活躍する20年後を見通せていない。最近では、今後10年から20年の間に現在の職種の半分以上がなくなり、今は存在していない仕事が新たに生まれているとも言われていますが、20年後の産業構造が一体どうなっているのかもわからない。

将来社会への期待と不安が交錯する今こそ、若い世代の人々には、「自分たちが生きて行く先の社会がダイナミックに変化することへの対応力を身に付ける」という視点をまずは持ち、その上で先を見通す力、いわゆる「展望力」を持ってほしいと思います。

◆これからの不確かな社会を生き抜くために必要なのが「展望力」なのですね。もう少し詳しく教えてください。

―曄道
「展望力」には「社会がどう変わっていくか」と同時に「自分自身を社会に合わせてどう変えていくか」という二つの視点が必要です。残念ながら、展望力を直接学ぶ授業も、「20年後はこんな社会ですよ」と教えてくれる学問もありません。展望力を高めるには、多様な環境で様々な価値観に触れ、多面的な発想を知ることが大切なのです。

私は、専門性の重要性がどんどん高まっていくと思いますし、またこれを活かす人間性、コミュニケーション力、複合的視座の獲得が重要と考えます。しっかりとした専門性を身につけた人材同士が横につながっていくことが、変化の激しい社会の中で新しい価値の創造や、イノベーションの創出につながっていくのではないでしょうか。

 

さらに付け加えると、国際社会にチャレンジしていくには、専門性に加えて「教養」も必要です。しかし、それは単なる「知識」ではなく、学際的、融合的、実践的、そして複合的な知識であり、「考える力」、「応用する力」なのです。自分にそういった力が備わっているかを絶えず客観的にはかり、海外や多様な価値観の中に身を置くことで、自分の置かれている状況をしっかりと見極めてください。

「トランプ政権の誕生にはびっくりしたね」と言っているだけではなく、「アメリカの過去の歴史と世界の現状を紐解くと、この先こうなっていくのではないか」と、確固たる根拠のもとに、自分の言葉で語ることのできる人がこれからの世界で必要とされる人材だと思います。